2017年度 自由の森学園入学式 校長の言葉

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。
そして、保護者のみなさん、お子さんのご入学おめでとうございます。

今から32年前の1985年4月に自由の森学園は開校しました。
今回で33回目の入学式です。
この32年という長い間、自由の森学園で最も多く語られてきた言葉は
「学び」あるいは「学ぶ」という言葉だと思います。

この「学ぶ」ということに深く結びついている「宣言」があります。
それは「ユネスコ学習権宣言」です。
この学習権(学ぶ権利)宣言がパリの会議で採択されたのが1985年3月29日、
の15日後の4月13日、自由の森学園は開校しました。

自由の森学園が大切にしている「学び」を考えていく上で、とても重要な宣言だと
私は思っています。



長い文章なので一部を紹介します。

「学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け、深く考える権利であり、想像し、
 創造する権利であり、自分自身の世界を読み取り、歴史をつづる権利であり、
 あらゆる教育の手だてを得る権利であり、個人的・集団的力量を発達させる権利
 である。」

この宣言の大切な点は、私は二つあると思っています。
まず、1つめは、教育活動の中心にあるのは学習活動である・「学び」であると
位置づけ、学ぶ人が主体(中心)なのだと高らかに宣言しているところです。

 戦前の日本の教育がそうであったように「教え込む」ことが中心ではなく、
「学ぶ」「学び取る」ことが大切にされるべきなのだということです。

2つめは、学習権は一部の人の文化的ぜいたく品ではなくて、戦争や災害、貧困など、
様々な不利な状況・困難な状況にある人こそ学習権が必要なのだと言っているところ
です。

この学習権(学ぶ権利)を保障していく責任は、国や社会にあることは言うまでも
ありませんが、学ぶ一人一人が自分の学習権を大切にすると同時に、自分以外の
他者の学習権を大切にする責任が一人一人にあると私は思っています。

一人一人の責任ということでは、最近「自己責任」という言葉をよく耳にするように
なりました。日常的に「自己責任」という言葉が使われ出したのは数年前のことです。
広辞苑という辞書に「自己責任」という言葉が登場したのは2008年からです。

つまりこの言葉は短期間で急速に広まり、現在では、不安定な仕事・働き方、
働き過ぎ、そして貧困などといった不利な状況や困難な状況にある人々に
「努力やがんばりが足りなかったからだ」「競争に負けたのだから仕方がない」
といった個人だけにその責任を押しつける風潮に拡大しているように思います。
人々を序列化し、人々を分断し、人を孤立させているこの「自己責任」という風潮は、
子どもたちや若者たちをも追いつめているように私は感じています。

みなさんの入学したこの自由の森学園は、かけがえのない子どもたち若者たちを
テストという一元的な価値で人間を序列化し評価していく教育のあり方をやめ、
すべての生徒が深く豊かな学びとの出会いを通して、
自由と自立への意志を持ち人間らしい人間として育つことを助ける教育
をつくりだそうと誕生しました。

一人一人の学習権(学ぶ権利)を大切にするということは、学ぶ(学習する)
ということを「自己責任」として個人に突き放すのではなく、
みんなで支え合いながら助け合いながら、一人一人の学びを深く豊かなものにしていく
ことだと思います。

そして、そのために自由の森学園は誕生したのだと私は思っています。


みんなで支える、助け合うと言いましたが、このことはそう簡単ではありません。
まず、学ぶ主体・主人公であるあなたは、誰かが教えてくれるのをただじっと待って
いてはいけません。「自ら学んでいく」ということをはじめる必要があります。

 また、あなたには、生徒や教員などいろいろな人が関わりを持ってきます。
 あなた自身もいろいろな人に関わる必要があります。そこには面倒くさいことも、
 煩わしいこともあるかもしれません。一人でやった方が楽だと感じることもある
 かもしれません。 

 しかし、一人では出会えないような世界に出会う可能性が、
 こうした学びにはあるのです。




私が最近偶然手にした本に「スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む 」という本が
あります。
スウェーデンは福祉が充実している国として、また、国政選挙の投票率が85.8%と
いうことからもわかるように政治への関心が高い国としても有名です。
その小学校の社会科の教科書にこのような記述がありました。



私たちは、なぜ社会に生きているのでしょうか。三つの答えが考えられます。

自分を守るため 私たちは社会に生きることで、他の人の助けを得ることができます。私たち人間は生存の可能性を高めるために社会をつくってきたのです。

人間は社会的な存在だから 私たちは時々一人になりたくなるとはいえ、みんなで一緒にいると幸せです。基本的には他の人と一緒にいたいのです。

私たちは他の人と一緒にいると、一人でいるときより多くのことを学べます。



ここの「社会に生きる」という言葉を
「自由の森で学ぶ」という言葉に置き換えてイメージしてみてください。


今日からみなさんは自由の森という社会の一員です。
これから一緒に自由の森という社会をつくっていきましょう。



入学おめでとう



















新井 達也



※ 参考文献:ユネスコ学習権宣言と基本的人権 編著藤田秀雄 教育史出版会

スウェーデン小学校社会科の教科書を読む ヨーラン・スバネリッド著
鈴木賢志他編訳 新評論

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